僕が工務店を始めた理由。

リノベーションの現場で日々、僕が感じたことを振り返りながら、なぜいま工務店を作ったのかを伝えたい。全くもって残念な事例を厳選し、そこに潜む日本の賃貸住宅の課題を整理し、なぜ工務店なのかを伝えるのがこの 目的だ。

▼花柄の壁紙。

僕はここ数年、たくさんの空室物件を見てきた。

悩みや課題はそれぞれ違う様々なものの、一番残念なのが、何の意思もないままリフォーム業者が施工をし、あまりにも質の低い原状回復が繰り返された物件が多いことだ。挙句、賃料を下げても入居者がつかず、それでもなお賃料を下げざるを得ないということだ。

きっと元々は和室のワンルームであったのだろうか、壁は塗り壁のままなのに床だけがファンシーなクリーム色のフローリング調のクッションフロアがはられた部屋。近くにある女子大を意識したのだろうか、花柄のクロスが貼られたキッチン。あとからつけた電話やテレビの配線が部屋中を縦横無尽に存在する部屋。

挙げだしたらきりがない。

 

▼服を選ぶように。

相談にくるオーナーのほとんどは「奇抜なアイデアで部屋を生まれ変わらせたい」とか「目を引くインテリアで集客したい」ということを口にするが、僕からすると奇抜なアイデアも目を引くインテリアも全く必要ない。

大切なのは、その物件が決まらない理由をきちんと理解することだ。

服を着替えるときにはシャツとパンツの組み合わせを選ぶように、リフォームや原状回復のときにもちょっと考えるだけで全然違うものになる。巾木の色なんてあまり気にしないけど、、、そもそも巾木の色を選ぶなんてことは大家はやらないのであろう。。。。それが黒なのか白なのか、あるいはベージュなのかによって部屋の印象は全然変わってくる。明るいからという理由だけで、蛍光灯がついている例もあるが、蛍光灯の白々しいい色はなんとも虚しく、殺風景な部屋の印象を与える。

ちょっとした気遣いと、ちょっとのアイデアでいくらでもかわるのだ。これは決して多額の投資をしてリノベーションしましょうということでなく、同じコストだったらどっちを選ぶかというだけのことだ。

▼事件は現場でおこっている。

合わせて気になるのが優先順位の問題だ。特にリフォーム業者に任せていると、リフォーム業者がやりたい内容の工事に偏りがちなことが多い。もちろん、リフォーム業者もお客さんを騙して工事をさせているわけではないのだが、賃貸物件として客付けをするために何が一番大切なのかというところまでは考えられていない。オーナーがやりたいリフォームと賃貸を決める上にやるべきリフォームは異なることが多い。

当たり前の話しだが、リフォーム業者は賃貸募集の専門家ではない。

整理をすると、

1)物件の個別の課題や、優先順位を整理したり、あるいはアドバイスできる人がいない。

2)改修コストを抑えたい中で、設計料などの費用にコストを割くことができない。

3)オーナーの周りに相談できる人がおらず、リフォーム業者に任せっきりになる。

ということが考えられる。賃貸物件の多くは一般的に2、30万程度の原状回復ができるかできないかくらいであり、何十年かに一度2,300万のリフォームをおこなうというのが精一杯だ。

▼ハイパー大家の出現

一方で最近では、物件の相続とあわせて息子や娘が管理を始めたという例では、若い感性によってすっかり生まれ変わっている事例も幾つかある。

カスタマイズ賃貸を皮切りに、今や日本いや世界の賃貸マーケットの憧れの的であるメゾン青樹の青木さんだ。他人任せにせず、自らの感性とメッセージで新しいブロジェクトをどんどん形にし、自らの事業領域を広げているハイパーな大家だ。メゾン青樹のカスタマイズ賃貸を中心に、新築でも、リノベリング、都電テーブルなど枚挙にいとまがない。

彼の活動と発信力にはいつも感動するのだが、皆が青木さんになれるのか、あるいはなればいいのかというとそうではない。彼ほどのバイタリティーと発信力のある人間はそうそういないし、たくさんいてもうざいのである。

▼3種の神器

改めて、今の賃貸住宅の課題とその解決に必要な鍵は、
1)賃貸不動産に対して、収益性の側面から相談を受けらえる場をつくる。

2)アイデアとセンスで素敵なリフォームが出来る工務店/現場監督/職人を育てる。

3)現場監督が顧客の要望とを形にする武器、ツールを充実させる。
ということにあると思う。

一般的なリフォームや原状回復のコストを考えるととてもインテリアデザイナーを雇ってパースを描いたり提案を受けたりするような余裕はない。適切なアドバイスを瞬時に現場レベルの具体的な計画と施工に落とし込みができるチームとそれを支えるツールの必要性だ。

これらの整備により、
・センスのいい現場監督により課題の整理とアイデアが溢れる。

・現場の工夫でコストを抑えて、質の高いものができる。
ことが期待できる。

3)の武器やツールはtoolboxをはじめ、ECサイトや雑誌、事例集など充実してきた。

一方で、1)と2)、つまり、賃貸不動産の課題整理とその解決を図るセンスのいい工務店の存在は圧倒的に不足しており、その実験と実績の場を作るのがつむぐ工務店だ。

センスが良くて、現場で臨機応変な対応ができる現場監督をたくさん世の中に輩出しよう。それが、結果、日本の建築空間のボトムアップにつながり、不幸な住宅やオフィスが減るはずだ。誤解してもらいたくないが、建築家やデザイナーがいらないと言っているのではない。事実、僕はもう一つの会社camsite incでは設計事務所として活動し、仕事をしている。ある一定の規模においては建築家やデザイナーにお願いできないから、そういう人がいなくても世の中の建築の問題を解決できる仕組みをつくりたいということだ。

設計ー施工という区別がなくなることで、既存建物の可能性とできることの選択肢が増える。やるべき最小限の課題に対して、コストを集中し、かつ、今の建物を生かした物件に仕上げる。こんな動きができるつくりてが世の中にふえる。

その場を作るのがつむぐ工務店だ。